【6】シンボルツリー
 お金、お金、お金。
 お金さえあれば、何とかなる、せち辛い世の中だ。

 そしてそのお金を計算し、得られる先の安心感……。

 正直なところ、──つまらないな、と思った。

 本当につまらない。

 働いて、働いて、そして得られる報酬。また働いて、働いて、限られた時間を失う。
 そして今の私は、体を壊し、その働く時間さえ失った哀れな骸(むくろ)に過ぎないのだ。

 しかし……、である。果たしてそうなのだろうか?
 私は自問する。娘が自分の時間を気付かせてくれたのではないのか、と。むしろ大切な時間を、取り戻したかような気分にさえなったのである。

 娘を眺めていて、ふと、鳩と遊びたくなった。楽しそうに遊んでいる娘のいるところへ、無性に行きたくなった。

 外は逃げ場の無い、蒸し暑い世界だ。だから何なのだ。私は構わず外に出た。

 娘の側まで来て、一緒に鳩を追った。よちよち逃げる鳩を、汗水を垂らして無邪気に追った。
 情けないことに、あっという間に息が上がった。両膝に手を添え、肩で息をしていた。

「おとうさん、だいじょうぶ?」

 美月が私の影の中に立って、見上げていた。

「しかし……、楽しいな」

「ええっ?」

「美月は暑くないのか?」

「あつくないよ」

 美月の顔は、赤かった。水屋に連れていき、娘の手首を水で濡らした。

「お父さんは休憩所に戻って、お茶を貰って来るよ。美月も水分を取りなさい」

「まだハトさんとあそびたい」

「美月はこんなに暑いのに、平気なんだな。なら、冷たいお茶を買ってくるよ。この辺にいなさい」

 娘はすぐに鳩の元へ戻った。私はそれを見届けて、今度は水で喉をすすぐと、喉全体の違和感が私を襲った。

 



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