【6】シンボルツリー
 そろそろ時間だった。もう、美月を幼稚園にお迎えにいかなければいけない。

 本当にあっという間だ。今日の幼稚園は半日保育だったのだが、時間が経つのが、とても速かった。

 落ち着いて家事をするにも、これでは時間が足らないだろう。例えば家計簿のような、計算する作業など、美月が居て、そしてまとわり着けば、なかなか捗らないだろうと思った。

 私は妻に相当なプレッシャーを、何年も与え続けていたのであろうか。何も言わず、年月だけが過ぎ、費やされてゆく。

 しかしそれは、とても恐ろしいことだ。壊れていく過程を肌で感じることもなく、ただ無意識のまま、わだかまりのようなものが生まれ、死んでゆくのだから。

「ひとり言が多くなったね」と、会社の同僚に言われた。私はそんなことですら、全く気付いていなかったのだ。





 クーラーの効いた建物から、蒸し暑い外の世界に出る。空気を体に取り込むと、喉の壁同士が引っ付くようで、違和感そのものだった。

 時間を気にして、駆け足で自転車置き場までやって来た。呼吸の音を聞きながら、自転車を引き出し、幼稚園に急いで戻る。

 一刻も早く美月を迎えに行ってやりたかった。
 
 
2.ふらり (完)

 









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