烏藍婆那
 ぽ、と家のお盆用の祭壇の蝋燭に、お墓から持ってきた火をつける。

「さ~、これでとりあえず、お盆のお参りは一段落。あとは十五日に流せばいいだけ」

 クーラーの効いた部屋で、ごろりと横になる。
 毎年毎年、億劫だと思いつつも続けているお盆のこの行事も、この祖母の家に来ている間はやっておかないと。
 誰もそういうことしなくなっちゃったら、ちょっと悲しいしね。

『うお。寒。つか、何だこれは。いきなり空気が冷たくなった』

 聞き慣れない声に、ぱち、と目を開ける。
 どうやら寝転んでいるうちに、眠ってしまったようだ。

 う~ん、と伸びをし、そのままごろごろしていると、再び何か声が聞こえた。

『か~、何だこの馬は。下手くそだの』

 目は開けたが、寝転んだまま、私は固まった。
 聞いたことのない声だ。

 しかも、微妙にエコーがかかっている。
 普通の人にはあり得ない、このエコー……。

 泥棒のほうがマシ。
 いやそれもどうだろう。

 実害がないのは泥棒『じゃないほう』か?
 いやいや、『じゃないほう』だって実害がないとは限らないだろ。
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