甘い恋の賞味期限
 史朗がようやく手首を離してくれたので、千世は距離を取る。全然会っていなかったのに、こんな所で会うとは……。

「…………」

(なんで、ずっと見てるのかしら?)

 史朗がこちらをジッと見つめるので、千世は気まずさで視線を泳がせる。
 こんなにも凝視される理由が、全く分からない。

「その服は……」

「え? あ、あぁ……」

 なるほど、服を見ていたのか。
 それなら納得できる。
 この服をプレゼントしたのは、他ならぬ史朗なのだ。興味を持って当然だろう。

「サイズがピッタリで、驚きました。値段にも驚きましたけど……」

 彼氏持ちの愛菜は、千世にメークをした後は帰るだけ。暇潰しにと、愛菜が服の値段を調べてくれたのだ。
 その値段を知って、心晴も含めた3人、絶句した。服がこんなにも高い物だなんて、今日まで実感したことなかったから。

「……よく、似合っていると思う」

「あ、ありがとうございます」

 褒められているのだから、ここは素直に礼を言うべきだろう。
 ただ、こんな形でこの服を着たのは、少し申し訳ないような気もする。

「えっと……私、そろそろ行きますね」

「……あぁ、呼び止めてすまなかった」

 千世が笑顔を浮かべ、立ち去ろうとした時、偶然は幾度も重なってしまったようだ。エレベーターの扉が開き、現れたのはなんと、史朗の両親だった。


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