甘い恋の賞味期限
 静子が出迎え、鞄を持ってくれる。彼女が居るという事は、千紘はまだ眠っていないのだろうか?

「いえ、1時間前にベッドに入りました」

「なら、帰って大丈夫ですよ。お疲れ様」

 鞄を受け取り、ネクタイを緩める。

「……晩ご飯、温めましょうか?」

 エプロンを外しながら、静子はキッチンを見る。今夜はオムライスを作った。
 千紘が食べたいようだったから。

「食べてきたのでーー」

「親父!!」

 元気な声が聞こえて、史朗と静子が同時に振り返る。リビングの入り口に立っていたのは、ベッドにいるはずの千紘だった。

「起きたんですか、坊ちゃん?」

「なぁ、親父。これ見てくれよ!」

 静子を無視して、千紘は自分のスマホを見せる。画面に映し出されているのは、昼間のホットケーキだ。

「オレが作ったんだぜ」

「うちにホットプレートなんてあったか?」

 ホットケーキのすぐ側に、ホットプレートが見える。この家にホットプレートは無いし、何よりもテーブルに見覚えがない。

「千世と一緒に作ったんだ。なぁ静子、ホットケーキミックス買って来てくれよ。上手く作れるようになって、千世を驚かせてやるんだ」

「千世? 千世って誰だ?」

 先程から疑問符ばかりが浮かんでいるのに、どれも解決されないまま。
 史朗が説明を求めるように、静子を見る。

「その……」

「なぁなぁ、うちにメープルシロップあるのか?」

 千紘は興奮しているし、静子は明らかに何かを迷っているようだ。

「千紘、後で聞いてやる。だから、ちょっと待っててくれ」

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