甘い恋の賞味期限
「それじゃあ、相手のお嬢さんにもプレッシャーでしょう。会うだけなんですし…………鍵、がない」

 昨日、疲れて帰って来てから、どこへ置いたっけ。以前、鍵を置いておくための小さなカゴを用意していたのだが、結局使わずじまい。整理整頓が出来ないわけではないのに、どうしていつも、鍵や時計を無くしてしまうのだろう。

『もっと前向きに考えて。私も初めて会うのだけれど、向こうは初婚だそうよ。子持ちでも気にしない、って』

「あった……とりあえず、今から出ます。切りますね」

 電話を強制的に終わらせ、史朗は重い足取りで玄関へ向かう。

「千紘、行ってくる。静子さんに迷惑かけるなよ」

 予想通り、声は返ってこない。史朗はため息を漏らすと、靴を履いて家を出る。
 それと同時に、千紘は自分の部屋から顔を出す。

「……今日は土曜だから、行ってもいいんだよな」

 ニカっと笑うと、千紘はいそいそと出かける準備をし始めた。




*****

 喫茶店【スピカ】は、今日もまぁまぁの客入り。千世が手伝うほど忙しくもないため、今日は奥の部屋でゆったりとした時間を過ごしていた。

「……あ、お菓子買ってきてもらえばよかった」

 スマホを取り出し母親にメールしようと思ったが、ちょうど帰ってきたようだ。仕方ない。お菓子は諦めよう。

「千世ちゃん? あのねお母さん、また連れて来ちゃったのよ」

「……また? 連れて来た?」

 困ったように笑う母の後ろに、小さな影が見える。
 それは間違いなく、生意気な男の子・千紘だ。

「千世! プリンだ!!」

「…………君、ホントにきたわけだ」

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