絶対主従関係。-俺様なアイツ-
 振り向いたそこには、目を細めて微笑む皇さまがいた。

「皇…さま……」

「ああ、皇さま。お騒がせしてすみません」

 あたしの声を掻き消すように、主任は一歩進んで腰を折る。

それに続いて、小さくスミマセン、とつぶやいて主任に倣(なら)った。


けれど、皇さまはクスクスと笑いを忍ばせて、あたしを覗き込んできた。


「愛子ちゃんは、別にわざと帰宅が遅いわけじゃないよね?」


 まだ、振り払えたわけじゃないんだ。

きゅーっと締め付けるキモチは、顕在していた。


その想いをぐっと飲み込んで、皇さまの優しい手助けに口を開いた。


「そ、そうなんです、主任。あたし、文化祭の実行委員でして……」

「委員会?」

 ぽかんとした主任に、口をごもらせて答える。


 皇さまはあたしのことを気にかけてくれているのかな……

なんて、心の隅で考えもしたけれど、すぐ否定した。


きっと奨学金の資料を見て知っていたのだろう、と、思い出したから。


「はい。 …当時は、まさかこの屋敷で働くようになるとは思わなかったですし」


 これは本当だ。


 奨学金を得るためには、勉学はもちろん、さらに部活を辞めずにがんばることで評価がもらえる。

しかし、勤労学生にとって毎日行われるような部活動に所属するのは難しい。


そこで多くの貧乏生徒たちは委員会に積極的に参加することにより、それを補っているってわけ。


 期間が限定されている文化祭の実行委員なら、とある一定の時期だけバイト量を減らせばいいと思っていた。

その時期が、この使用人という仕事とダブってしまっているのだ。


 あたしの様子に、さすがの主任も大きくため息をつく。


「……まぁ、帝さまが了承してるなら構わないのだけど」


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