嘘とワンダーランド
「まあ、そうだよな…」

課長はそう返事をして、わたしの髪の毛先に手を伸ばすと、それを弄んだ。

弄ばれるたびにクイックイッと毛先が引っ張られたけど、嫌な気はしなかった。

「事実、お前は意地を張ってた訳だしな」

課長は毛先から手を離すと、フッと笑った。

それから、大切なものを扱うようにわたしを抱きしめてきた。

「本当に、俺のことが好きなんだな?」

「はい、好きです」

わたしは課長の背中に両手を回した。

「正文さんも、わたしのことが好きなんですね?」

「ああ、若菜が好きだ。

好きだから、離婚したくない」

そう言った課長に、
「わたしもです」

わたしは言い返した。

ようやく打ち明けることができたお互いの気持ちに、わたしはホッと息を吐いた。
< 188 / 303 >

この作品をシェア

pagetop