きみの幸せを願ってる




信じられないような、知らせを聞いて、3日。


更に詳しい結果が出たと言われ、俺は入院するきみの元を訪れていた。


病室は、どこもかしこも白で統一されていて、寒々しい。


消毒液臭いのも嫌だ。


「凛の腫瘍は、良性だったわ」


きみのお母さんが、きみの検査結果を教えてくれた。


病室には、ベッドの上で座るきみを取り囲むように、きみのお兄さんとお母さんと俺がいた。


医者から直接、検査結果を聞いたのはきみのお母さんだけだった。


だけど、特別に家族ではない俺にも教えてくださった。


「その腫瘍が神経を圧迫しているの。手術でその腫瘍を取り除かなくちゃいけないの」


「手術……」


きみがつぶやく。


きみは、ずっと、泣いていたから、目が充血している。


「良性だから癌のように、転移する心配はないけれど、でもこのまま放置していたら、更に神経を圧迫して呼吸をしなくなったり、意識を突然失ったりすることになるかもしれないって……」


呼吸がとまる……。


俺は息を呑んだ。


つまり、このまま手術をしなければ、行きつく先は死……。


きみが死ぬ……?
夢を抱いて、こんなにも輝いているきみが死ぬ……?


「手術を受けろ、凛。金は俺がなんとでもするから」


覚悟を決めた声を出したのは、きみの社会人のお兄さんだ。


だけど、お母さんの顔は晴れない。


「凛。私も手術を受けてほしい。だけどね。この手術はリスクが大きい。手術後に、もしかしたら、記憶を失っているかもしれないの」


ヒヤリ。冷たい刃物のようなものを首筋に当てられたかのように、俺の身体が震えた。


記憶を失う。


手術をすれば、きみは俺のことを忘れるかもしれない?


自分の夢を忘れるかもしれない?


あの輝く瞳も、クルクル変わる表情も見れなくなるかもしれない……?


「嫌だよ〜……!記憶失くすなんて!」


きみは叫んだ。


ここまで取り乱すきみを見るのは初めてだ。


瞳から次々とこぼれ落ちる涙の雫が、シーツに水玉模様をつける。


「今やっと捕まえた幸せを、忘れてしまうなんて……」


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