最強甘々計画


 塩河さんは川沿いにあるタワーマンションの上階に住んでいた。


「うわー、いいお部屋……」


 広さ四十平米はあるという一室を、私は落ちつきなく見渡す。部屋のインテリアはカタログにそのまま載っていそうな配置で、綺麗に片付けられていた。掃き出し窓からは、街の淡いイルミネーションが展望できる。


「塩河さんって、いつから彼女がいないんですか?」


「んー、忘れたよ。ままれちゃんと会う前のことは」


 キッチンに立つ塩河さんは、私からの質問も生返事に、冷蔵庫から材料を取り出している。


 私たちはお菓子作りのため、お揃いの黒地のエプロンを身に付けた。


「おっ、似合ってるじゃん。家庭的に見えていいよ。でも、これは無地で地味だから、可愛いエプロンを着たままれちゃんが見てみたいな」


「今度来る時は、自分のを持ってきますね――」


 私は次のお菓子作りの約束を、ちゃっかりとこぎつける。


「裸にエプロンなんて、いいんじゃない?」


 塩河さんが冗談まがいに、にやにやとしだした。


「もー、やだあ……」


「女の子にこんなこと言い出して、俺もいよいよ、おっさんになっちゃったかなあ?」


「そんなことないですよ。塩河さんはとても若々しいですよ。大学生って言われても、違和感ないくらい」


「それは褒めてるのかな?」


 私たちは塩河さんの部屋に着いてからも、笑い合う。
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