アクシペクトラム

返送、そしてまた…

翌日、私は眠気を抑えて荷物を梱包していた。
昨日は帰宅してから何も手に付かず、パソコンを開いたまま書きかけのお話を前にぼーっとしてしまった。
「………」
気がついたら夜が明け、小鳥の鳴き声でああ朝かと椅子から立ち上がり、とりあえずシャワーを浴びたのだった。
真希の言ったとおり向こうは覚えてた…
ぶつかった時に見た白羽さんの顔を思い出す。
驚いてたな…って、そうだよね…
こんな近くの居酒屋でまた会うなんて思いもしなかった。
これでは抹消どころか、むしろ私の記憶の白羽さんが上書きされた。
全てはアレを買ったせいだ。
例の大人のオモチャは、結局のところ開封しないまま全て返品することにした。
どんなものか目にしたかっただけで、今となっては用済みだったからだ。
手元に置いておくのもなんだか落ち着かなかったので、特徴だけメモしてすぐに返送処理をする。
コンビニで出す勇気はないから取りに来てもらおう。
そんな考えだけが頭を埋め尽くしていて、私はごく自然な流れで集荷の電話をかけていた。
そう、あのホワイトタイガー宅配便に…―


ピンポーン…―
「お世話になってます、集荷に来ましたー」
インターホンの音とともに快活な声が聞こえた。
「少々お待ちください」
ようやく胸のつっかえが無くなると、段ボールを玄関まで運び、私は意気揚々にドアを開ける。
「これなんですけど」
えっ…
ドアの向こうにいた人を見て私は固まった。
「こんにちわ、サトーさん」
「な、んで…」
「なんでって…、サトーさんが集荷の電話したんでしょ」
そこには、1週間前は謝罪に、
そして昨日、居酒屋でぶつかった白羽さんが立っていた。
< 8 / 30 >

この作品をシェア

pagetop