ときの聲(こえ)
あれから一月(ひとつき)ほどして、

側室が身ごもったと、
漏れ聞こえてきた。

「しかし、
奥方様には、全くきざしが無いのぅ……。
全くお渡りが無い訳では御座らぬのに……!」

またかえでがチクチク嫌味を言う!

「こればっかりは、授かり物ゆえ……。」

瑠璃姫はそう言って、
毎日誤魔化していた!

かえでに聞こえない小声で、

「耶介なら……耶介なら、
こんな時に、
何とする。」

と、瑠璃姫がつぶやく……。

私は姫の痛々しい後ろ姿を見ていられない!

瑠璃姫は、
目を閉じていたのだが、
姫の口元がにっこりと、
ほほえみを浮かべた!?

御守り袋を
姫は、取り出して、
じっと眺めたかと思ったら、
再び目を閉じた。

哀しげな表情は消えて、
瑠璃姫は、
思い出の世界に心が旅立っているように、
とても美しかった……。
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