虹色のラブレター
* 2 *


7月の終わり頃、僕は貴久から「彼女の名前を教えてもらった」と聞かされた。

その2、3日後には「誘ってみたけど玉砕」ということも聞かされていた――……。




*




その日は、貴久が公休で僕は一人で喫茶店に来ていた。

一人でも二人でも僕の座る場所は決まっていた。




「いらっしゃい……今日は?一人?」


お冷を片手に彼女が訊いてきた。


『はい……あいつ公休なんで』


「千鶴も休みだよ」


『そっか』


僕はそっけなく答えた。


「あなたは気にならないの?」


『……あの子のことは貴久が気に入ってるんですよ?』


「そうじゃなくて……」

だから、と彼女は続けた。


「あなたのことを聞いてるの」


『……僕は別に』


彼女はクスッと笑みをこぼした。


「どうするの?」


僕は一度チラッと彼女と目を合わせ、ため息を一つついた。


『どうするもこうするもないじゃん。貴久が上手くいくことを願うだけだよ』


すると、彼女は「あはは」と声を出して笑った。


「私が聞いてるのは注文のことよ?」


僕の動きは一瞬止まった。

彼女の方をもう一度見ようとしたが、思うように動いてくれないその身体が僕の邪魔をした。


『アイスコーヒー……アメリカンで』


僕は出来るだけ冷静にそう答えた。


< 10 / 278 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop