強引上司の溺愛トラップ

好きです。

どうしよう。今から戻ったら変かな。電話かLINE、してみようか?でも、何て言えばいい……?

その場に立ち止まって、バッグから携帯を出したりしまったりしながらこの後の行動について考えていると、後ろから誰かの気配がした。


「佐菜」

名前を呼ばれ、私は振り向く。



「そ、早太くん?」

「何だよ、ガッカリしたような顔して」


ガ、ガッカリなんてしてないよ!と、私は慌てて早太くんに言う。


スーツ姿の早太くんは、今日は残業が押してこれから帰るところらしい。
早太くんのお家はこのすぐ近くって訳じゃないけど、路線は一緒だし、この辺りはお店も多いから、買い物でもしていたんだろう。
そして、歩いていたら私の姿を見つけて、不思議に思いながらも声を掛けてくれた、とのことだった。



「ていうか、お前はほんとにどうしたんだよ。こんなとこにひとりで」

早太くんにそう言われ、私は何も言えなくなる。


早太くんは私と課長とのことも知らないし、課長と千鈴さんがキスしていて、思わず逃げてしまった……なんて言えない。



……だけど。




「何かあったら言っていいんだぞ?


と……。



長男の早太くんは、いつだって私たち家族のことを誰よりも心配してくれている……。その優しさが、今はやけに胸いっぱいに広がって。


……私は、早太くんの胸に、ポス、と自分の顔を埋めた。
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