強引上司の溺愛トラップ
「とりあえず、人を急に呼び付けるのをやめたらいいと思う」

喫茶店の二人掛けの丸テーブルに突っ伏して項垂れる私に、日路くんが冷ややかに言った。


「冷たいよ日路くん。私、こんなに悩んでいるのに」

「いや、急に『大変なことが起こったから会ってくれ』とか言われたら、かなりの緊急事態だと思うわ」

「緊急事態だよ。仕事に差し支えがある」

「俺、仕事終わりで疲れてるのに、何でわざわざお前の恋バナ聞かなきゃいけないの」

「私も仕事終わり。いいじゃん、私が寮まで来たんだから。それに、恋バナなんて、そんな楽しげなものじゃないじゃん。今日は結局、そのまま課長から逃げるようにして帰ってきたけど、明日からどうしたらいいの?」


告白されるなんて一ミリも思っていなかった。しかも、男性に告白されたのも初めてなのに、まさか課長にあんなこと言われるなんて。あの、課長に。



私は頭を抱えるけど、日路くんは、非常にめんどくさいと言わんばかりの表情をしていた。

三人の兄の中で一番性格が合うとはいえ、日路くんは昔から、面倒見のいいタイプではなかった。人の相談ごとに乗ったりするのも苦手なので、おそらく今は、本気でめんどくさいと思っているだろう。

それでも、結婚している早太くんの家にこんなことでおじゃまする訳にはいかないし、神くんとお母さんは……何か面白がりそうだし、日路くんしか頼れる人がいなくて、私は仕事終わりに電車に乗ってこの寮まで来た。
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