貴女へ
「はぁあ…っ!ようやくや〜。何か遠出しとった気分。」
屋敷に着くなり田辺くんが叫んだ。着いたと言ってもまだ門の所。此所から門を潜って中庭へ。でも、この中庭がこれまたデカい。鬼ごっこが十分すぎる程出来る広さがある。その後、L字型の本館と別館と別れている。まぁ、結実ちゃん情報だと別館は関係者以外立ち入り禁止らしい。というかまず、こういうシチュエーションカフェというのはここまで本格的ではないらしい。基本はシチュエーションの元となりやすいサロンしかないらしいけど…しかも本館、別館のそのまた奥に池みたいな庭があり、離れには一軒家があって…執事さんは沢山いるのに、更にコックさんや食器洗い人がいるしと、延々と出てくる。
「…とにかく、執事長の所行くか。」
私の心の声と田辺くんの叫びを完璧に無視して、佐藤さんが言った。
「そうしよっか。」
そう言いながらも私も無視して返事。
「…ですね」
「あぁっ。また敬語使ったっ。」
「ちょーっ待ったぁぁあっ。今のそれ、可笑しいっ。アンタはそこを気にしないで突っ込まないっ。そんで二人とも、俺に突っ込んでっ」
…そうなのか。・・・よく分からん…
「…田辺。突っ込む気も起きない。」
結構ズカズカと言うんだね…
「と…とと、とにかく行こ行こっ。」
誤魔化すような口ぶりでこの場を乗りきろうとした田辺くんの声がする。
私も早く入りたくなってきた。…だって……こんなに…動いて…こんな時間になっちゃうと…正直眠い…
「私、も…田辺くん…の…、意見に……賛…成…」
「…おいっ。大丈夫かっ?元気ないけど…」
「眠い…」
ボソッとした私の声に二人は半分驚き、半分困った顔をした。
「はぁ?だってまだ10:00にもなってないやんっ。普段何時寝とん?」
「…ねむ…い、の…たな…べ、も。ねむいよ…ね?」
「…会話になっとらへんやんっ!」
「…とにかく今は一先ず寝た方がいい。田辺。」
「わーってるってっ。」
「…ごえんあさい・・・もぉ…」
佐藤さんの腕の中で、瞼を閉じた。
「別に謝らんでもええのに…まぁ、コイツらしいけど。……寝てもーたな。」
「…確かに。」
「・・・大好きなんやけど…」
「…バカ。万が一を考えろ。…それにタブー事項。」
「ん〜?…良いじゃん別に。どーせ聞こえて無いって。それにね、僕の大好きなこの子はとっても鈍感なんよ。」
聞くつもりは無かった。意識は薄れ掛けていたはずなのに田辺くんの声は私にはっきりと聞こえた。
…聞いてしまった。
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