咆哮ストロベリー
咆哮ストロベリー




朝靄の陰に隠れるように、そうっと足音を殺しながら、そのあたたかさはやって来る。

目を閉じて、よく耳をすまさなければ聞き逃してしまうような小さな小さな彼女の気配を、僕は一度も逃したことがない。枯葉を注意深く踏みしめ、音が鳴らないようにそっと扉を開けて、螺旋状の石段を、一段ずつゆっくりとのぼってくる。

その光景をこの目で見たことは一度もないはずなのに、なぜかまぶたの裏に鮮明に映し出されては、いつも僕の頬を緩ませる。

ひとつ、ふたつ、足音が近付いて、みっつ、よっつ、そしてそこで目を開ける。


「……………」


彼女の唇がにっこり笑って、僕に何かを言っている。おはようとか、今日も寒いねとか、きっとそんな何でもないようなことを言っているのだろうけれど、僕にはそれが理解できないから、内容は別にどうでもいい。

今日も決まった時間に彼女はやって来た。いつもと同じに、僕の目を見て何かを言って、ふんわり微笑みながら、僕の頬をそっと撫でた。

窓のないこの部屋に、朝が来た。
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