腹ぺこオオカミはご機嫌ななめ
チョコレートを溶かしながら奈々さんに
「失礼な事を聞いてもいいですか?」と尋ねる。
「どうぞ。ちゃんと聞いてください。」と笑う。
きっと奈々さんは私が聞きたいことがわかってる。
「奈々さんは菅原先生の事がちっとも好きにならなかったんですか?」と震える声で聞いた。
「ならなかったですね。
なぜなら、菅原先生入る私のことが好きじゃなかったから。
菅原先生は、菅原先生の心に踏み込んでこない恋人が欲しかったの。
そんなのって恋人じゃあないでしょ。
きっと、菅原先生も気がついたと思う。
だからね、ちっとも私に手を出したりはしませんでしたよ。
でも、ウサギちゃんの場合は違う。
私とリュウは菅原先生の悩んでるのを見て来た。
ウサギちゃんの事で菅原先生の心はいっぱいになった。
年が離れていることも、自分がオオカミって呼ばれていることも
わかっていたけど、
きっと、自分の気持ちに戸惑いながら、
それでも、どんどん好きになって、
菅原先生はウサギちゃんの全部が欲しくなった。
心も身体も、ウサギちゃんの未来も。
それって、恋でしょう。
菅原先生はやっと、好きな人があらわれた。って事。
チョット前の菅原先生はオオカミって呼ばれてたとおもうけど
もう、ただの、ヒトです。
ウサギちゃんに出会って、ただの恋をする男の人に戻ったの。
自分で自分にかけていたオオカミの魔法が解けたって事なんだと思う。
安心して愛してあげて下さい。
きっと、菅原先生の方がウサギちゃんよりずーっと臆病だと思いますよ。
急にウサギちゃんが居なくなったらどうしようって、心のどこかで思ってる。
昔、愛する人が急にいなくなった時みたいに。
私もリュウに再会してやっと、事故で死んでしまった恋人を過去にする事が出来たの。
真っ直ぐなリュウの愛は私の心にまっすぐ届く。
私もとてもリュウを愛してるの。」と大きく微笑んだ。
「ウサギちゃんは菅原先生の事が好き?」と聞かれ、私は大きく頷く。
私はきっと、ツカサさんを愛してる。
あの優しい笑顔も、意地悪な事を言う唇も、無防備な寝顔も、真面目に仕事をする横顔も、
少し心配性なところも、愛してると囁く声も。全部。
私の愛が真っ直ぐ届くといいな。

ガトーショコラは少し焦げてしまったけど、
奈々さんに合格点をもらえた。
私は心も軽く奈々さんのお家を後にしたけど、
明日はツカサさんを私の両親に会わせる日だったと思い出して、
ちょっと、溜息が出た。
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