腹ぺこオオカミはご機嫌ななめ
あれから2週間経ったけど、
非常階段であのウサギと会っていない。
失敗したな。
不用意に驚かせてしまって、追い出した形になってしまったかな?
あの場所はきっと、彼女にとって、リラックスできる
大切な場所だったろう。
あの驚いた顔を何度かおもいだして、
ちょっと、反省する。


救急外来には1年目のナースは配属されない。
3年目になって、救急外来の夜間の手伝いに来るようになってから、
救急外来でやっていけそうな子をスカウトする形が普通だから、
あの、新人のウサギの知り合いのナースはいないかな。
とひとりで考えを巡らせた。


あっと、
ウサギだ。
車椅子を押して、CT室に入って行く。
僕は急がないように、そっとCT室の操作室に入った。
馴染みの技師でひとつ年上のゆりちゃんが僕を見て微笑む。
「どおしたの?菅原センセ。
救急外来の患者さんの順番はまだですけど…」
と話しかけてくる。
ウサギを捕まえに来たとは言えず、
「あと、どのくらいかかるかなって思って、見に来た。」
とニッコリ笑いかけると、
「あと45分後の予定。」と僕の腕にそっと触れた。
ああ、そういえば、一昨年、2回寝た事があった。
と思い出す。
僕が奈々ちゃんに恋をしていたのは結構有名で、
去年の夏までには、遊びで付き合っていた子とは、
付き合うのは止めていた。
でも、奈々ちゃんはリュウと結婚したから、
僕が失恋したのも結構有名な話かな。
時々、女の子達に、まだ、遊ばないの?
と聞かれるようになってる。
僕は彼女が触れた手を気づかないふりで、そのままにしておいた。


ガラス越しに研修医が、造影検査用にルートを取るのや、
ウサギが、バタバタと落ち着かない様子で、
介助に付いているのを微笑ましく眺める。



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