ナックルカーブに恋して

「もう、いろいろ諦めようよ。」

彼は、プリプリ怒っている私の頭を引き寄せて、再び腕の中に私を緩く拘束する。

「みんなにバレてるし。」
「みんなって?」
「野球部全員。ちなみに、先輩たちも監督も知ってる。」
「うそ!?」
「ホント。僕、すごく分かりやすいみたいだから、ごめんね。」

子犬のような目で見つめられても、困る。許さざるを得ないじゃないか。

「でも、おかげでみんな協力してくれたよ。」
「え?」
「瑠衣にずっと彼氏が居ないことも知ってたし、それが僕の為だっていうのも知ってた。」
「何、それ。すごく怖いんですけど。」
「僕の情報網を舐めたらダメだよ、明奈先輩だけじゃなくて、浜中先輩も、まさかの渡辺先輩まで、今や僕の味方だからね。」
「それで、渡辺君からラインが…」
「そう、渡辺先輩に瑠衣に連絡取れないこと相談したら、倉木が急病で危篤だって連絡しよう!って提案されたんだけど、さすがに嘘はマズいから止めてもらったんだ。」

渡辺君ならそんなこと言い出しかねないことを、長年の付き合いで知っているだけに、思わず顔がひきつった。

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