ナックルカーブに恋して

カキーン!
快音が鳴り響いて思わず、二人して立ち上がり手を叩く。
世間話は中断して、目の前の試合に二人とも集中した。

一回裏の攻撃。
桜川の先頭打者が塁に出る。

「今年は投打のバランスがいい。」
「去年はとにかく打って点稼いで、逃げ切るみたいなところがあったね。」
「ああ、見ててハラハラする試合が多かった。その点、今年は少しだけ安心できる。」
「注目選手は?やっぱり、エースの後藤君?」
「ああ、でも二番手の二年の境もかなり良くなってる…って、俺に聞くなよ。自分の目で見て取材しろ。」
「いやすでに取材済みだけど、参考までに聞こうかと。」
「取材協力費、請求するぞ。」
「やだ、そんな経費うちの会社にあるわけないじゃない。」

私は大学卒業後、地元の新聞社に就職した。ほぼ県内でしか読まれていないような地元密着型の新聞だ。

入社三年目に、念願かなってスポーツ部に配属されて、ちびっ子相撲大会から実業団スポーツチームの試合まで、毎日取材に飛び回っている。

中でも、高校野球の地方予選は皆の注目度も高い。ゆえに、私は夏に向けて必死に学校や球場に足を運び、注目チームや選手を取材していた。

決して大きくない球場のスタンド席からは、白球を追う球児たちの表情まで鮮明に見える。
それぞれに色んな思いを抱えて勝負に臨む彼らは眩しく輝いていて、見ているだけで自分も青春の日々に戻れるような気がする。

今年もこうやって夏が始まるのだ。

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