蒼いパフュームの雑音
カウンターで穏やかな時が流れていたが、奥の席から桃園 友衣奈の冷ややかな視線がこちらに刺さっていた。

(高望みはしない。こうして話せるだけで十分。)


入り口のドアの隙間から光が指す頃、ここもそろそろ終わりの時間だ。

「朝になるのが遅くなったけど、店の閉まる時間は同じなんだよなー。」
「太陽が登りきるまで、飲みたいですよねぇー。」
「お、いい事言う。前も言ったけど、紅ちゃんと居ると時間足りないな。」

やばい。
どうして緋色は言葉の隅っこに、蜂蜜みたいな甘さの言葉を足して来るんだろう。

その甘さで、とろけそうだ。
いやだ、とろける前に帰らなくては。

「つ、強志さんお会計してください。」
「あ、じゃあ僕も。」

私達は会計を済ませ、ドアのガムランボールを奏でた。

私は薄らと明けてきた空を見上げて、思い切り伸びをした。

「僕ね、この時間の空の色が好きなんだよね。空気の匂いとか、まだ誰にも侵されてない感じ。」

「!」

私がいつも思っている事を、緋色は綺麗な言葉で並べた。

小さくて目に見えないパズルのピースが、ぴったりと合う様な感覚だ。

「送るよ、ウチどこ?」
「え、いや、もうすぐそこ。2分くらい。」

私は見えているマンションを指さすと、
「じゃあ、遠回りしよう。」

そう言って、緋色は私の手を引いて家とは反対へ歩いた。
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