優。

私の才能



 いつ頃のことだろう。
 すごく小さい頃の事。
 変な夢を見た。
 暗い私の部屋に、誰かの声が響くの。
 助けて、助けて……。
 そうすると、誰かが言うの。
 俺が助ける。でも、もう無理なんだって。
 子供ながらにとても嫌な夢と理解して、寝るのが嫌になった事もある。

 久しぶりに、その夢を見てしまった。
 その夢のせいなのか、今日は朝食をあまり食べることができず、今、とーってもお腹が空いている。
 もうすぐお昼だというのに、我慢できないくらいお腹が鳴る。
 ついでに、今はまでにないくらいに忙しい。

「この調子じゃお昼食べられないかもしれないわね。」

 はい、タイムリー!
 この暑い中、本当についていない…。
 今日の朝食は、珍しく豪華なフルーツにパンに……。
 思い出すだけでお腹が鳴る。
 やっぱり、食べておけばよかった…。

「やっほー!北中さん!」

 なんでこんな時に来るんだ!と内心思う。
 今日も雑誌に乗っていそうなオシャレってかんじの服だ。

「いらっしゃい、ちょっと今日は忙しいんだよね…。」
「そっか、なら手伝おうか?」
「うそー!いいの?ほんとにいいの?」

 森くんは笑顔でうなづいた。
 やっぱ、来てくれてありがとー!
 って、自分でも心情変わりすぎって思う。


「お疲れ様ー! そろそろお昼つくろうか!」

 お母さんのその言葉を、どのくらい待っただろう。
 森くんのおかげで仕事もはかどった。
 二人はやりきった達成感で、爽やかな笑顔になった。

「二人とも、片付けしたら用意してあげるから、よろしくね、」
「ありがとうございまーす!」

 お母さんはキッチンへ向かった。
 二人は急いで片付けた。


「うーん!お母さん特製クリームパスタ、最高に美味しい!!」
「はい!とっても美味しいです!」
「あは、嬉しいわ!でも、おかわりはないからね!」

 お母さんは昨日のことがあってきっとビクビクしているのだ。
 森くんの頭の上にはハテナが浮かんでいる。
 私はとっさに訂正した。


「お義母さん、ごちそうさまでした!」
「森くんもありがとね」
「じゃあ…」

 森くんは(おかわりはせず)全ての料理を美味しいといって平らげてくれた。
 お母さんもとても機嫌がよくなったし。
 森くん、ありがとう!
 森くんは爽やかな笑顔で去って行った。

 空を見上げると、水色の空にうっすらと白い月が浮かんでいた。

『満月だぁ………』



『今日は満月か…。月と俺が会わなくなったときも…』

 俺は、神社で朔を抱えて木陰に座り込んだ。

ミャァオ

 朔が不思議そうに俺の顔に覗きこんだ。
 今日は愛とあわないといけない。
 そう思った時、風が青々とした葉を騒がせたー。


「綺麗な満月だなぁ。」

 愛は窓に頬杖をつき、黒い空にくっきりと映る満月を見つめていた。

ミャァオ

 スポットライトに当てられた白猫が私を呼んでいる。
 私はスクッと立ち上がり、外に降りた。
 二度しか行ったことのない神社までの道が、白猫を追わなくてもなんとなくわかる。
 なんだか導かれているみたいだ。

「よぉ。」
「どうしたの?」

 月光に照らされた優の顔が、なんとなく綺麗に見えた。
 だって真面目な顔してるんだもん。

「今日は愛に紹介してぇ奴がいるんだ。」

 優が私に紹介したい人?
 どんな人だろう。
 ていうか、優に知りあいなんているんだ……。

「愛、なんか言いたそうな顔してっけど…」
「何でもない!何でもないよ」

『やっぱり、優は感が鋭い。そういう意味では、なんかすごいかも。』
 そんな事を思っているうちに、奥から人影が目に映る。

 本殿の奥から白装束のようなものを着たおばあさんが現れた。

「雫のばーちゃん、巫女だ。」

『巫女?!!!!』

 愛にとっては初めて見る巫女だ。

「驚いているようだな。私は巫女の雫という。 聞いた話によると、黑書を持ちながら才能が無い、とか。」

「愛、本殿に来い。」

 優、私の事あんなに馬鹿にしてたくせに、なんで巫女の雫さんに話したの?
 私、今から雫さんになに聞かれるの?
 また喧嘩なんて始まらないよね??
 私は、状況がのみこめないまま、優についていった。


 静まりかえった本殿の中、月の光が壁の隙間から差す。

「本当に、何も変わったことはないのか。」
「は、はい。」

 雫さんは眉間にシワをよせ、私をじっと見つめた。

「今日は満月。いつでもいい。今日一日で見たもの、感じたことはないのか?」
「思い出してみろ。朝から、今までで何か……」
 
 私の隣に座っていた優が、私に問いかける。
 言われたとおり、朝からのことを順に追った。
 そういえば……

「っっ!……いや、変わった事じゃないかもしれないけど。朝、夢を見たの。」
「夢………。」

 そして朝みた夢を話した。


「おぬし、やはり……」

 雫さんは何かを確信したように顔を上げた。

 雫さんの目から伝わってくる。
 私って、やっぱり……

「私、やっぱり才能が無いんですねっ!?」
「愛、やっぱりお前は無才能なんだなっ!!」

 さらに優が追い打ちをかける

 ガーン……

 私って……、私って…、いったい……。

「違うわっ。おぬしら最後まで話を聞け。」

 雫さんが呆れたように言った。

『ち、違うのね!? 私にはちゃんと才能があるのね!!?』

「雫さん!教えて!」

 愛は目をキラキラさせて雫に問いかけた。

「愛、おぬしには……」


「思った人の過去や未来を視ることが出来る才能がある。」

 えー!
 すごい!!
 私、すごい!
 でも、なんで夢を言っただけでわかったの?

「それってつまり……」

 優が口をひらいた。

「そうじゃ。月と…同じ才能なんじゃ」

 えっ……。
 
「月って、優の知り合いの人だよね? 
 雫さん、才能が同じって、よくあるの??」
「いや、初めて聞く。 とても珍しいことじゃ。」

 驚いた。
 偶然なのかもしれない。
 優の好きだった人と、同じ才能って……。

「優………………………」

 優は、思い込んだ表情だ。
 なんて声をかけたらいいのかわからず、心臓が高鳴る。
 優、悩まないで?

「ぐ、きっと偶ぜ…」
「雫のばーちゃん、これって偶然じゃねぇんだよな?」

 思いもしなかった優の一言に、言葉が出ない。
 偶然じゃないの? 
 なんでそんなんわかるの?

 わかんないよ、私、わからない。
 教えて…、教えてよ、優……………。

「ああ。偶然ではない。」
「………」

 雫さんの一言でそうなんだ、と確信した。
 イマイチどういうことがわからない。
 3人とも黙り込んでしまった。
 私と月が同じ才能だから、なんだって言うの?
 なんだか、悪いことをしたみたいに心がモヤモヤする。

「愛、よく聞け。黑書というのはな………」

 雫さんはゆっくりとわかりやすいように、黑書がどういうものなのか説明してくれた。
 話を聞いてモヤモヤは晴れたけれど、黑書がとても恐ろしい物に感じる。

 雫さんの話によるとに黑書は、
『才能を引き出し、それをさらに凄い才能にする。』 
 そういうものだった。
 でも、今まで黑書を持った人は才能を悪い事に使ってしまったり、自分の利益のために使ったりして、自ら身を滅ぼしてしまった。
 でも唯一、自分の心を失わず誰かのために黑書を使ったのが━月だったんだ━

「でも、過去と未来を視ることで、誰を救うっていうの?」
「それは、自分自身で導きださなければいけないんじゃ。」

 わからない。
 私には荷が重いと思った。
 
「月は凄い才能の持ち主だった。だから愛、おぬしもきっと………」
 
 どのくらい話したのだろう。
 スマホを見ると、時刻は9時をまわっていた。
 
「私…そろそろ帰らなくちゃ。」
「優、送って行ってやれ。」
「おう……」

 今日は満月。
 なんとなく商店街が明るい。
 優はいま、どんな顔をしているの??
 あんなに強がりの優が黙ってる。

「優……」
「なぁ、愛。多分、これから色々大変だと思うんだ。 だから……、あんまし俺から離れんなよ………」

 思いもよらなかった。
 優が私にこんな優しい言葉をかけてくれるなんて。
 でも、それは私にかけた言葉じゃない。
 月にかけたかった言葉なんだよね。
 わかってる。わかってるよ。
 でも、とっても嬉しい。

「優?」
「あー?」
「優、私の名前、覚えててくれたんだね!」

 私は、ニカッと笑った。

「ま…まあな。」

 優は照れくさそうに鼻をかいた。
 初めて二人で笑い合えて、私はとっても嬉しいよ。

 するとどこかで、猫の鳴き声が聞こえた。

「朔…。」
「サクって、あの白猫??」
「ああ、今日は満月だから、その月光にでも当たってるんだろ。」
「ふーん。変わってるね。日光浴でもないのに。」
「あいつは新月に生まれた。だから成長が遅いんだよ。」

 新月…。 
 朔の日だ……。

「植物だって、日光浴びねぇといけねーだろ?それと一緒で、月光に当たんねぇと、大きくなれないんだ、あいつは……。」

 それぞれで、色々事情があるんだなー。
 きっと、優も。
 いつも強がっているだけ。
 だから私が、貴方のこと、支えるよ。
 きっと、何があっても。

 前みたいなことは、もう繰り返さない。
 愛だけは、絶対、俺が守ってみせる。
 きっと、何があっても。

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