美しいだけの恋じゃない
『でも、見かけとは裏腹に、意外と仕事はできたりするから』

『ちょっと先輩方!その言い方ヒドくないっスか!?』

『何だよー。褒めてやってんだろー』


最初はただただ圧倒されるばかりだったけれど、その後も業務の合間合間に繰り返された皆さんの軽快な言葉のラリーを耳にしているうちに、いつしか緊張はほぐれ、思わずクスッと笑いを漏らすまでになっていた。


もちろん一日中、その会話の様子をぼんやりと眺めていた訳ではない。


私は私で主に佐藤さんから与えられる仕事にきちんと向き合っていた。


研修の間に登録を済ませておいた指紋、ID、パスワードで端末機にログインし、さっそく実務に取り掛かる。


正直その段階では何が何やらちんぷんかんぷんだったのだけれど、とりあえず言われた通りに順番にアイコンをクリックしていって既存のファイルを開き、渡されたデータを、これまた言われた通りに当てはまる箇所にひたすらポチポチと打ち込んでいるうちに、瞬く間にお昼となった。


『キリの良い所までは終わってるみたいだから、午後はこっちをやってもらおうかな。ずっと画面とにらめっこじゃ疲れちゃうもんね』


休憩後、再び佐藤さんの指示に従い、今度は伝票整理や書類のファイリング、コピーや会議資料の製本等軽作業をせっせとこなし、無事に1日の業務を終えた。


『門倉さんの言う通り、皆さん良い人ばかりだったな…』
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