キミの首輪に、赤い糸を。
「...真白は、その時にはもう記憶を失っていましたから、悲しませずに済んだことが唯一の救いです。真白は、母のことは好きだったようなので」


如月さんは淡々と話す。

まるで何も思っていないかのように。


「...忘れたいって思いますか?」

「え?」

「真白みたいに、記憶を無くしたいって、思いますか?」


私の質問に、如月さんは少し視線を逸らした。


「...何度も、思いました。その度に真白を羨んだ。その度に、自分が嫌いになった。...でも、仕方がないと思いました。これは罰なんだって。真白を見捨てた、罰。真白が記憶を無くしてからだけじゃないんです。あの日も...あの日も俺は、逃げたんだ」


如月さんはそう言って、拳を強く握った。


「逃げた...?」


その意味も分からず、私はただ聞き返すことしか出来なかった。


「...失格だ。俺は、兄貴失格。本当は、真白に会う資格なんかねぇのに」


違う人のようだった。

今までの如月さんより、年相応の、そして、感情を持っている如月さんだった。
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