鬼社長のお気に入り!?
「行くなよ」


「っ!?」


 すると背中にふわっと温かな温もりを感じて、それが身体全体を覆う。


「八神さん……?」


 まるで壊れ物を扱うかのように、けれど感情を抑えきれなくて後ろから抱きしめる腕に力が入ってしまっているような切ない加減にドキリとする。


「悪い、怒鳴ったりして」


 首筋に感じる八神さんの吐息がくすぐったくてそして熱い。


「どうしてこんなことするんですか?」


「……はは、どうしてだろうな……無性にお前を抱きしめたくなった」


 そう言われて私も抱きしめる八神さんの腕に自分の手を重ねたい衝動に駆られる。そして私が八神さんの腕にそっと触れると、さらに抱きしめる力がこもった。


「お前がいまでも桐生の息がかかっているかと思うと嫌なんだ。いや、桐生電機に未練があるんじゃないかって疑ってるとかそういうんじゃない」


「……言ってる意味がわかりませんよ? 私はもう桐生電機の社員じゃないです」


「ったく、ものわかりの悪い女だな」


「え? ンッ――」


 くるりと半回転させられると、唇に温かな感触がして頭の中が真っ白になった。後頭部を手で押さえつけられて身じろぎもできない。
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