1人ぼっちと1匹オオカミ(上)
1.情報屋

はじまり


 ざわつき。夜の静寂を打ち破るほどの喧騒。
 煌々と光るライトが夜の暗さを打ち破る。
 電車の到着音、人の足音、改札を通るたびに鳴る電子音。

 人々の喧騒に紛れ、1人。
 仕事帰りのサラリーマンが手に持ったスマートフォンで確認するのは時間。
 改札近くの柱に背を預け、せわしく行き交う人々を見る。
 そして、また時間を確認する。先ほどから何度その動作を繰り返すのか。

 男は急に焦り出す。
 指定の時間を間違えたのか。だが、届いたメールを再度確認しても、場所も時間にも誤りはない。
 なら、どうして現れないのか。
 男は焦ってメールの作成ボタンを押す。焦って打たれたメールは何度も間違えて、更に焦りを呼ぶ。

『焦るな。俺はここに居る』

「ッ!?」

 不意に男にかけられた声は何かを通した音のように聞き取りづらい。
 弾かれたように振り返った男は、自分が背もたれにしている柱の向こうにフードを深くかぶった小柄な影を見つけた。

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