柴犬主任の可愛い人
 
 
「皆さんに移ってなければいいけど……」


「それよりも青葉さんが安静に、ですよ。ゴールデンウィーク、予定詰まってるんでしょう?」


「そうですね。明日以外、家にいる日がありません」


去年は引きこもってましたので……。


休日に、予定を埋めてしまわないと落ち着かない人もいるけど、私はそんなことはなく。ぼうっとして過ぎる一日も、一日二日くらいならわりと好きだ。今年は何故そんなに忙しくなってしまっかというと、この一年間の、友達に対する積み重なった不義理の反動という面もある。なんとなく……お誘い断ることが多かったからな。ダークサイドめ……。


テーマパークにアウトレット、行列のパンケーキとラーメン屋に並んだり、日帰りバス旅行にも行くのだと言うと、パンケーキにまだ行列している世間に驚き、ラーメン屋にだけは興味を示したのか、柴主任は訊いてないのに豚骨醤油味が好きだと返してくる。他はどうでもいいらしい。


「私は味噌ですね。今回は魚介豚骨のつけ麺だって言ってました」


「それもいいっ。――けれど、女の子は軒並みあっさりが好きだと思っていました」


「なんですかその偏見……私以外の二人も、がっつりどっかりみたいのが好きですよ」


「女の子がですか?」


「女の子が、です」


いい歳になっても、男の人は女子に夢見るものなのか。小早川さんみたいな子がモテるはずだ。……まあ、それはそれで、あの子は可愛かったからいい。徹底してたし、姑息じゃないところが好ましくはあった。




時刻は夜の八時半。


寄り道する日の、いつもよりは早い帰宅だ。


「ありがとうございました」


アパートの前で、恒例となったお礼は欠かさず行うけど、やっぱり風邪なのかな、身体の重心がぶれる。


「いいえ。では楽しいゴールデンウィークを」


にこやかに手を振り、未だ私には発見出来ないけど、近道があると言い張る柴主任は帰っていった。




熱があると認めた身体は、柴主任に言った通り、ゴールデンウィーク中、家に居ないこととなる。


……別の意味で。




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