蜜愛フラストレーション
二.ゆくりなくも

大事なプレゼンを終えて、十八時半を過ぎる頃には商品開発部と企画部の合同フロアは人もまばらとなっていた。

その先陣を切ったのは、「お先ですっ!」と言いながらご機嫌に帰って行ったハルくんだった。

確か彼女とは最近別れたばかり、とあれば合コンへ向かったに違いない。見事に表情に出ているのだから、本当に分かり易い後輩だと推理する私の隣のデスクから、「……振られろ」と恨みの籠もった声が聞こえてきた。

ビクッとしながらも呟いた女性に目を向けてしまったが、通常仕様の声色とはかけ離れているのだ。
その彼女は去年、一年のうちに電撃結婚とスピード離婚を経験しており、女好きの後輩ハルくんの態度には手厳しい。

浮き足立って帰ったハルくん、もう少し空気を読んだり女性に気遣えないと痛い目見るよ?と、口にはせず案じておこう。

こうして退社していく社員たちの顔は疲れが色濃いものの、結果が伴わなくても開放感に満たされているのは毎回のこと。
もちろん今後は商品化に向けて忙しくなるが、気持ちを入れ替えて臨む前の休息タイムでもある。

かくいう私もそのひとり。すでに不在のハルくんとは真逆の心境で、会議中に取り付けられた約束のために足取り重く早めの退勤となった。

< 10 / 170 >

この作品をシェア

pagetop