蜜愛フラストレーション
「萌ちゃん、ここ空いてる?」
「あ、はい、どうぞ」
昼の混雑も少し緩和した頃、私は午前中からの作業が一段落したのでひとり昼食を摂っていた。
呼ばれて顔を上げると、テーブルを挟んだ向かいに松木さんがトレーを持って立っていた。
「萌ちゃん、今日もオムライス?」
頷いて了承するとテーブルにそれを置き、椅子を引いて目の前の席に座った彼が笑う。
愛想笑いを返したものの、今日もまた顔を合わせてしまい、溜め息を吐きたくなった。
広い食堂内も今は随分席が空いていて。わざわざ私のところに来る必要もないのに、と。
最近のランチは松木さんと重なるのだが、偶然とは言い難い。敢えて時間帯を変えても、なぜか彼は後から現れるのだ。
「あの彼と上手くいってる?」
「……プライベートなことなので」
憂鬱にさせる一番の理由がこれ。どうしてか、ユリアさんとの関係を未だしつこく尋ねられている。
「今は仕事中じゃないよ?」
「私にとっては職場にいる限りは仕事中なんです」
「行き帰りに萌ちゃんと会えないからね」
ああ言えばこう言う彼に、へらりと笑って誤魔化す。おかげで昼食時間まで休息を奪われた気分だ。
仕事中は五十嵐さんに絡まれ、休憩には松木さんに尋問を受ける毎日で余計に神経もすり減っていく。
やり過ごすことに疲れて食欲も失せた私は、半分ほどオムライスを残したところで席を立つ。
「もう食べないの?」
「はい、じゃあ失礼し」
「俺も行こうかな」と、私の言葉を遮って立ち上がった松木さん。彼もまた半分ほどしか食べていなかった。
嫌気がさして早足でトレーを返却し、食堂を出たものの、結局エレベーターホールで追いつかれてしまう。
扉の開いた一基に歩み寄ると、そのエレベーターには優斗と五十嵐さんが乗り合わせていた。
ネイビーのスーツを着た優斗は鉢合わせにも表情を変えず、私も一礼をして無言で背を向ける。
特に五十嵐さんに勘づかれるわけにはいかない、それが心を強くさせていた。
こうして私たちを乗せたエレベーターが上昇を始めてすぐ、頭上から思いがけない言葉が降ってきた。
「萌ちゃん、俺諦めるつもりないから」、と。