bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-

「ちょっと、トイレ行ってくるわ」



まだ長さの残る煙草を灰皿に押し付け、神部にだけ伝えて俺は席を立つ。


安藤を別に追いかけたわけじゃない。



そうやって思っていたのに、トイレ前で安藤に偶然のようにあってしまったら思わず抱きしめてしまった。


安藤の華奢な身体がこわばっているのが分かる。

「あのっ、本郷主任?」

戸惑っている安藤が言う。

「ったく。唯野さんなんてやめとけ。」

全く言うつもりのなかった言葉が俺の口から出ていた。


「分かったかな」




そういうと戸惑った瞳で俺を見つめる安藤にその場にいることが出来なくなり、逃げるようにトイレへ逃げ込み、今に至る。

 

俺は沸々としている自分の気持ちを押し殺すかのように大きく息を吐いて、その気持ち自体に気付かないふりをする。



「安藤はあくまで部下の一人」



何度かそう呟いて自分に言い聞かせる。



自分の気持ちを落ち着かせて、席に戻ると既に安藤は帰っていた。


「具合が悪いらしくなったらしいっすよ」

あてにならない泥酔した神部の代わりに竹之下が教えてくれた。



安藤の居なくなった飲み会は、男ばかりでしばらくたわいもない話をしたもののそのままお開きになった。

 
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