結婚したいシンドローム=特効薬は…あなた?【完】
お母さんに連れられ2階に向かったが、私の心は不信感で一杯だった。これって、彼の部屋へ入った瞬間に、親が勝手に決めた事だ。自分には関係ない。なんて言われるパターンじゃない?それか、完全に無視されるか、どっちかだ。
そんな私の気持ちなど知る由もないお母さんが部屋のドアをノックして明るい声で言う。
「司、昨日お話しした蛍子さんがお見えになったわよ。入りますね」
ドアが開くと綺麗に整理整頓された部屋で、電源の入った3台のパソコンを前に忙しくマウスを動かしてる男性が居た。
この人が司さんか……
でも、こちらに背を向けているから顔は見えない。取りあえず挨拶をすると、彼は後ろを向いたまま軽く左手を上げた。
「それじゃあ、私はお茶を持ってきますから、ふたりでゆっくりお話しでもしてて下さいね」
「えっ?ちょっ……」
いきなりふたりっきりはないでしょ?と焦るが、お母さんはそそくさと部屋を出て行ってしまい私は置いてけぼり。
さて、困った。何から話そう?辺りを見渡してもこれといって話題になる様なモノはない。仕方なく「何してるんですか?」と質問をしてみた。
すると、彼から一言「仕事」という言葉が返ってきた。
へぇ~引きこもりだからブラブラしてるんだと思ったけど、仕事してるんだ。
「なんの仕事ですか?」
パソコンを覗き込み訊ねると、彼がやっと顔を上げて私を見た。その瞬間、私の目は彼に釘付けなってしまい、思わず忘れたはずの人の名を呼んでいた。
「――― 一輝……」