結婚したいシンドローム=特効薬は…あなた?【完】

雅人さんの顔が浮かび一瞬、言葉に詰まった。


「言ったのか?誰に喋った?」


更に強く喉元を押さえられ息が出来ない。必死に抵抗し、一輝の手の甲に爪を立てるが、彼はその痛みさえ感じてない様だった。


「言え!!ホタル」


意識が朦朧とする私に、一輝は狂った様に怒鳴り続ける。これ以上、黙っていたら本当に殺される……と真剣に思った。


その直後、彼の目付きが変わり雅人さんの名前を口にする。


「雅人だな?雅人に言ったんだな?」


小さく首を振って否定したけど、その嘘は一輝には通用しなかった。


「ホタル……お前、最低だな」


押さえ付けられていた手の力が抜け、私は壁にもたれ掛りながらズルズルとその場に座り込んでしまった。大きく空気を吸い薄目を開けると、焦点の合わない目で呆然と立ち竦んでいる一輝の姿が見えた。


「出て行け……」


やっと聞き取れる様な小さな声でそう言うと、私の腕を乱暴に掴み部屋の外へと押し出す。そして、大きな音をたてドアが閉まり、まるで今までの出来事が嘘の様にシーンと静まり返る。


物音ひとつしない静寂の中、閉ざされたドアを眺めていてる私の目から涙が零れ落ちた。


この時、私はやっと分かったんだ……どうしてトップコンサルタントになれない雅人さんと別れたくないと思ったかを……


雅人さんと別れたら、一輝を想う自分の気持ちに歯止めが利かなくなりそうで怖かったんだ。


そして、この涙の訳は―――……ふたりの秘密をバラした私に対して、一輝は我を忘れるくらい怒りを露わにした。彼をそこまで本気にさせた山根主任に対する嫉妬。


大嫌いになって別れた男なのに……この10年、殆ど思い出した事もなかったのに、なぜ?なぜなの?


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