恋とは停電した世界のようです
カーテンコール
*
タクシーを降りて、自分の部屋に入った瞬間
やっと、ひとりになれたという安心感に、どっと肩の力が抜けた。
肩にかけたバッグが、するりと抜けて
バサリと床に落ちる。
ムーミンの手帳、薬用のリップクリーム、財布、イヤホン、携帯
見事に散らばってしまった中身。
だけど今のわたしには拾い上げる気力なんて、ない。
去り際、申し訳なさそうに視線をふせたままのルーカスさんが瞳に残っていて
(もう我慢しなくていいかな…)
そう思ったら、すぐに鼻の奥がツーンと痛くなって
じわじわと瞼が熱くなるのを感じた。
誰かに許しを請いたいのに
誰にも許してもらえそうな気なんてしなくて
胸の中が、幾重にも千切れそうになるのを感じた。