ベビーフェイスと甘い嘘

壊してもいいのに


お腹を気にしながらゆっくりと歩いて来た奈緒美ちゃんは、私の姿を見つけると驚きながらもすぐに笑顔になった。

「きゃー、茜さん、こんばんはっ!結婚式はありがとうございました。……そう言えば途中で帰ったんですよね?具合大丈夫だったんですか?今日は?茜さんも花火を上で見てたんですか?浴衣似合ってますねー。素敵ですっ!!」

まるでマシンガンだ。矢継ぎ早の質問に動揺しながらも言葉を返す。

「奈緒美ちゃん、こんばんは。お腹、大きくなったね。……あの……結婚式はごめんね。あの日は、すぐに休んで大丈夫だったから……今日はね、妹とか、みんなでここに来てて……今偶然二人に会ったの」


奈緒美ちゃんは一つも悪くないんだけど、直喜が目の前にいるこんな状況で結婚式の時の話だなんて、私にとってはまるで拷問のようだった。


話をしながらも、気まずさに声が震えてきて……悟られないように必死に言葉を繋げた。


九嶋くんと翔は、少し離れた所でじっと様子を見るように立っている。


奈緒美ちゃんの話す結婚式が、あの日のことだって翔が気がついて『けっこんしき?ママ、あさにかえってきたよね』なんて言い出したら……そう思っただけで背中を冷や汗が伝っていった。


直喜はどんな気持ちで話を聞いているんだろうと気になったけど、顔を見るのが怖くて、必死に奈緒美ちゃんだけに視線を合わせて喋った。
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