ベビーフェイスと甘い嘘

ため息を溢しながらフライヤーに惣菜を放り込んでいく。

決まった数をセットしてタイマーで揚げていくだけの仕事だ。心がなんとなく沈んでいるこういう日にはこんな単純作業がありがたくもある。


「柏谷さん」

不意に呼びかけられて、いつの間にか店長が後ろに立っていたことに気がついた。

「はい」


「……」


「……何ですか?」

呼びかけたくせに、全く話をしない店長に訝しげな視線を向ける。


店長と初花ちゃんは、今日はシフトに入らず資材庫の整理に一日を費やすらしい。


いつも制服を着ている時には、スラックスに革靴を履いてきっちりとした雰囲気のある店長も、今日は作業しやすいようにだろうか、ブルーのシャツにジーンズを合わせて、足元はスニーカーとずいぶんラフな格好をしている。


「何があったか知りませんが……フライヤーでぼんやりしてると火傷しますよ。集中してください。この前だって、ケガしてたでしょう?」


そう言いながら、右手の甲を左手の人差し指でトントンと叩いた。


あれは仕事中のケガじゃなかったんだけど……と一瞬思ったけど、ぼんやりしていたのは事実だったので、とりあえず「すみません」と謝る。


「そうだ。この前はレイアウト、お疲れ様でした。茂木のポップもいいけど、商品の展開が分かりやすいのが良かった。お客さんの目も引いてるし、上々ですよ」


「……ありがとうございます」
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