ベビーフェイスと甘い嘘

「だから一人で泣かないで。……泣きたくなったら俺の所においで」


「……っ」


最後は囁くように小さな声だったけど、その言葉は私の心の内側にサラリと入り、物凄い早さで染み込んでいった。



ーーまるで歌声のようだ、と思う。



自分の声が、紡ぐ言葉がどんなに魅力的かを知っていて……そんな事をサラッと言うもんだから、ほんと手に負えない。


「……開き直ったでしょ?」


つい最近まで私と話せなくて、寂しそうにしてたくせに。



悔し紛れにそう言うと、「『俺は』ちゃんと気持ちを伝えたからね。これくらい言う権利はあると思うよ」とニヤリと笑われた。


私達は、もう友達には戻れない。


だけど、九嶋くんが微妙な距離を保ったままで側に居てくれるから、結局私は彼の優しさに甘えてしまっている。


……これでいいのかな?


そう思って九嶋くんの顔を見上げると、そんな私の気持ちを見透かしたように「大丈夫だよ」と、可愛らしい顔をくしゃりと歪めて、優しく笑った。



その笑顔に、あの日から溺れたままの心が、ちょっとだけ浮上した。
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