ベビーフェイスと甘い嘘
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九嶋くんは何も口を挟まず、私の話をただ黙って聞いてくれた。
きっと、私が最後に伝えようとしている言葉も分かっているけれど、同じようにこうして受け止めてくれるのだろうと思う。
そう考えたら、胸の奥が軋むように音を立てた。
……だから、事実だけじゃなくて、私の心も気持ちもきちんと伝えたい。
私の心の弱い部分だけじゃなくて、狡い部分もちゃんと伝えないといけない。
そう決心していた。
「……私ね、ずっと灯さんの事を狡い人だって思ってたの」
「旦那さんがいて、悠太くんがいて、しあわせな家庭があるはずなのに、ずっと修吾の気持ちも掴んで離さないなんて……本当に狡い人だって。そう思ってた」
「灯さんが離婚する時だって、まず修吾の気持ちがまだ自分にあるかどうか、離婚したら自分の所へ来てくれるかどうか、私と翔よりも自分を選んでくれるかどうかを確かめてから離婚したはずなの」
灯さんが離婚する前から少しずつ増え始めた急な残業や出張は、家族で決めた予定と重なっている事が多かった。
修吾は、いつだって少しも迷う事なく仕事だから仕方ないだろ、と言って出掛けて行った。
「…………でも、私も狡いの。結婚する前から修吾が私を好きじゃないって知ってたのに、灯さんを好きだって知ってたのに、結婚したの。私には翔がいるし、家族になれば修吾も灯さんの事をきっと諦めてくれるって」