ベビーフェイスと甘い嘘

アイラインは、ちゃんと引きましょう


「ねぇ……もう一回シテくれない?」


「これならイイでしょ?一人でやってみてよ」


「んー、だって……うまくできないんだもん」


「甘えないの」


「んっ、やっぱ、だめ」



私の言葉を聞いて、目の前のオトコは深い溜息をついた。


「……だからさぁ、何でそこでヨレちゃうかなー。睫毛の根本を埋めるように、動かす!」

「だ、だって……瞼引っ張ったらよく見えないし。うまく引けないよ!」

「引っ張ってるほうの目で見ても見えるワケないでしょ」

呆れたようにそう言うとちょっと休憩ね、と言って九嶋くんはキッチンに立った。

その後ろ姿を見て私の口からも溜息が零れる。
残されたのは目元がガタガタと不格好になっている、そんな姿の私。

「はい、どうぞ」

目の前のテーブルにコーヒーが置かれた。

「はぁ……どうも」

ここはコンビニから程近い、九嶋くんのアパート。
私はここで彼のキャンバスになるはずだったのだけど……なぜか今アイラインの講習を受けている。


……コーヒーか。カフェインあんまり摂りたくないんだけどなぁ……。


そう思いながらも、わざわざ入れてもらったものを断るのも悪いので、仕方なく口に運ぶ。


何で私はここでこんな事をしているんだろう。
さっぱり分からない。

「ねーさん、不器用すぎ」

「うっ……」


先生のヒトコトが胸に刺さる。
実は私は不器用で、細かい作業が苦手なのだ。
< 86 / 620 >

この作品をシェア

pagetop