したくてするのは恋じゃない
「こんな事しておいて、何言ってるんだと思うかも知れないけど、気まずくなって来なくなるなんて、無しだからね」
…はっ、私…いつの間に。
私の顔はマスターの胸にあった。どうりで…声が響いてくると思った。
離されるとジッと見つめられた。
バチッとウインクをした。
「柔らかくて美味しかったです。…ご馳走様」」
声も何だか甘くて色っぽい。
なんて事…。どうしちゃったのでしょう、マスター。私は……動揺しかない。
「遅いから送って行こう」
言葉が上手く出ない。ただコクンと頷いた。
部屋の前まで送られて、絵里子ちゃん、と声を掛けられ、腕の中に包み込まれた。
身体はガッチリしているのにフワリと優しい。
「おやすみ」
頭を撫で、マスターは帰って行った。
「あ、また明日ー。お邪魔しますー」
精一杯、気を遣わせ無いよう頑張ったつもりだ。
遠ざかる背中にそう投げかけると、マスターは振り向いて手を振った。
部屋に入る。
ヘナヘナとヘタリこんだ。
ハァァ…何…何がなんだか…。日常がひっくり返るとはこの事。
オムライス食べに行ったのに…。
…キスされた。
唇に触れてみる。
…あんな蕩けるような、甘い…瞬時に甦った。…うわっ。
思わず頬を手で包む。
抱きしめられた…。
自分を抱きしめてみる。
…事故じゃないよ。事件だ、事件。大事件だ。
大変、大変。
落ち着け、私…。
マスターは一体どういう…。
あーーっ。お金、払い忘れてるぅ…。