〜愛が届かない〜

「1人で帰すわけにいかないって…」

そう言ってお店の人に何か話し終わると一緒に外に出てくれる。

一緒に帰ってくれるのかと期待したけど…目の前に止まったタクシーに私を乗せて運転手さんに1万円札を渡すと

「…彼女の家までお願いします」

そして、彼に見送られタクシーが発車した。

どうして…
溝口さんがわからないよ。

好きじゃないなら構わないで…

私を放っておいて…

タクシーの中で大粒の涙を流す私を、運転手さんは黙って気づかないふりをしてくれる。

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大泣きしたあの日
もう、溝口さんとは会わないと誓った。

かかってくる電話にも出ない
メールもLINEも既読をつけない。

でも…
彼から連絡が来ることが嬉しいから消せないアドレス。

矛盾しているって思う。
逢いたくて…逢いたくない人
愛しくて…憎い人

新しい誰かを好きになれば、こんな気持ちもなくなるはず…
だから、新しい恋を求めて
私だけを愛してくれる人を捜しに
夜の街に出て行く。

合コンに参加したり
ナンパ目的でオシャレなバーに同僚と飲みに出かけ
時には、1人で…

そして…今日も
同僚と数人で合コンに参加している。

「楓ちゃん…飲んでる?」

「…はい。でも…お酒にあまり強くないんです。だから、ちょっとずつじゃないと直ぐに酔っちゃって…でも、今日は楽しくてたくさん飲んじゃいそうです」

「そう⁈このカクテル甘くて飲みやすいよ。たくさん飲んで楽しもうよ」

潤んだ目で見つめれば、男はほんのり頬を染め下心を隠し強いカクテルをすすめてくる。

溝口さんなら
きっと…女の二面性見破りそれを楽しんで、もっと、スマートに口説くのに…

どれだけ溝口さんに惚れているの⁈
こんなの本当の私じゃない。
本当はお酒に強いし、男に媚びるふりをするのも疲れる。

前は、それを楽しんでいたのに…つまんない。
かっこいい人だと思うけど…結局、くらべてしまう。
溝口さんと違って薄っぺらい男…

私が無口なのは酔っていると勘違いした
男が、肩を抱いてくる。

「大丈夫⁈酔っちゃたんだね。お酒に弱い女の子って可愛い。俺に寄りかかりなよ……送って行くから寝てもいいよ」

見え見えの下心…
だけど…かっこいいし…
このまま酔ったふりしてエッチしてもいいかなぁ…

一時でも溝口さんを忘れられるかも…

「……ありがとう。ちゃんと介抱してくれます⁈」

男は、生唾を飲み込んだ。
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