〜愛が届かない〜

そこは、見えていたから改めて見る必要もないけど…そこしか逃げ道がなかった。

広い浴槽は、大人が4、5人が入れるんじゃないかと思うぐらいの大きさ。

そして、もう一つのガラス戸はテラスに続いているのか、背後にいた男がその戸を開け外に出て行く。

「おっ、露天風呂」

男のテンションが上がる声に、私も続いて出て行きお湯に手を入れる。

「あたたかい…」

「早速、入るか⁈」

「えっ…一緒に?」

「もちろん…」

「やっ、無理だから…」

そう言ってスーツを脱ぎだす男に背を向け、脱衣場らしき部屋に入れば、そこは第2の寝室。

天井がガラスになっていて、星空が綺麗に見えていた。

見とれていると

「逃がさない」

背後から回る手は腰を抱きしめ、男の唇がうなじを這う。

「…ぁ、んっ……」

「脱がされるのと自分で脱ぐのとどっちがいい?」

耳元で誘惑する男は、耳朶を啄ばみ返事を待っている。
これは、一緒に露天風呂に入ること確定での話しなのだろう。

「…わ、わかったらから…自分で脱ぐし私が先に入るんだからね」

「残念…脱がしたかったのに」

含みのある声からコンフォルトでの柚月との会話がよみがえる。

思うのと違い実際に言われると恥ずかしさが増して…

「…もしかして、柚月との会話聞こえてたの⁈」

「なんのこと⁈」

低い声を上げ笑っている。

「とぼけないで…もう…脱ぐからあっち行って」

男に振り向き胸を押して距離を取ろうとしたのに、シャツの前が肌蹴てて引き締まった体に直接触ってしまう。

ぼっと頬が熱くなるのが自分でもわかった。

それを楽しそうに笑っている男は、ゆっくりと脱ぎ出した。

「早く脱がないと先に入ってしまうけど、いいのか⁈」

いいわけない。

「目をつむって…よ」

「どうせ、後でじっくり見るのに」

「それとこれとは違うの」

「変なやつ」

こんな時だけ心が見えないのか⁈

目を閉じた男。

だけど…目の前で脱ぐのは恥ずかしくて男の背後に回って背中のファスナーに手を伸ばした。

だけど…慌てたせいかファスナーが噛んでしまう。

「……ねぇ、お願いがあるの」

「なに?」

「背中のファスナーが噛んだの。はずしてほしいんだけど…」

弱々しくお願いすると

「目を閉じてるからな…」

「……いじわる。開けていいから外して」

「了解」

男は、勝ち誇る声で背中のファスナーに手を伸ばした。
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