幽霊の影
私の勝ち
月曜日。


夫は仕事へ、瑛梨奈は学校へ行っている。



「Erina's room」のドアをそっと開け、何となく足音を忍ばせながら机の前へ。



――ごめんね、瑛梨奈。



本人がいない時に勝手に部屋に入った事は、確かに悪いと思う。


だが、何も机の中や日記帳を盗み見ようというのではない。


母親として、私は絶対にそんな事はしないと決めている。



例の本「私の勝ち」は、机の上にあった。



これは別に、私に見られて困るものではないはずだ。


一昨日だって、瑛梨奈の方から「あとで貸したげよっか」と言っていたのだから。



余計な装飾を一切省いた装丁。


さほど厚くはない、忙しい現代の小学生でも5日もあれば読みきってしまえそうな本だ。



改めてよく見ると、本の上部からは付箋紙が何枚かのぞいていた。


立ったまま、1枚目の付箋のページを開いて適当に読んでみる。


「孤高の、特別な存在」と題された一章であった。
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