幽霊の影
3人掛けのイタリア製ソファの上に脚を伸ばし、65型テレビの画面を眺めるともなく眺めながら、私は在りし日の――

小学校から中学1年までの

――幽霊の姿を、ぼんやりと思い返した。



無口で無表情で、生気にも存在感にも欠けた少女であった。


そのくせ、背中を覆う黒々とした髪ばかりがいやに強く目立ち、それは今でも生々しく、重苦しく、記憶に蘇る。


「幽霊」というあだ名の所以でもある。




――将来は作家になりたい――



生気の無い外見からは想像もつかないほど鋭く、やや癖のある筆跡の作文がテレビ画面に映し出され

「中学卒業後は高校へは進学せず、18歳の時に長編ファンタジー『かみさまのピーチフィズ』で小説家デビュー」

というアナウンサーの声が、それに続く。


「その後も小説やエッセイの執筆を精力的に続け、自身の少女時代を綴った最新エッセイ『私の勝ち』が、発売1ヶ月で10万部の売り上げを記録。

人気作家として、活躍に益々期待が高まりつつあった、そのさなかの出来事でした」



幽霊はペンネームを名乗らず、本名で作家活動を行っていたようだ。


だからニュースを見たとき、すぐに気が付いた。
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