幽霊の影
疑惑
「じゃあ瑛梨奈、ママ出掛けるから。

パパも、今夜も遅くなるみたいだし、誰か訪ねて来ても出なくていいからね」


「わかってる。行ってらっしゃい」


ソファにもたれ、私ではなく読んでいる本に向かって、瑛梨奈は言った。



「あんまり夜更かししないでね」


溜め息混じりにそれだけ言い残し、私は家を出た。


エレベーターで下へ降りて、マンションの前に待たせていたタクシーに乗り込み、主婦仲間たちと約束をしているフレンチレストランの名を告げる。



あれからも瑛梨奈は、幽霊の著作を熱心に読み続けていた。


ファンタジー、ホラー、コメディなどの各種小説、エッセイ……。


先日などは「ピーチフィズを飲んでみたい」と言い出して、私を愕然とさせた。



「何言ってるの。

あなたまだ子供なんだから、駄目に決まってるでしょ」


「別に今飲みたいって言ってるんじゃないよ。

20歳の誕生日になったら絶対飲むんだ」



瑛梨奈の20歳の誕生日は、両親が私にそうしてくれたように、シャンパンで祝ってあげるつもりでいたのだが。


「20歳のお祝いなら、もっといいお酒買ってあげるよ」


「やだ。ピーチフィズがいい」
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