幽霊の影
怨霊、或いは疑心暗鬼
リビングのソファで、コーヒーを片手に久々の休日を過ごしている夫が、不意にこちらを向いて言った。


「せっかくの休みなんだし、どこか出掛けない?」


「えっ」



夫の屈託のない笑顔を見つめたまま、私はその場に固まってしまった。



嬉しかったのだ。


微妙な距離を置き続ける気まずい生活に、少し疲れていたところであった。


夫も同じ気持ちだったのだろうか。



私は夫のそばへ歩み寄った。


「この前はごめんね」


素直に謝ると、つかえが下りたように胸が軽くなった。


もっと早く、こうすれば良かった。


変に意地を張っていた自分がおかしくて、つい笑いが込み上げた。



「俺も悪かったよ」


そう言って、夫が手を差し伸べる。


その手に、ぞっとするほど生気の無い手が重なる。



――え?
< 36 / 58 >

この作品をシェア

pagetop