幽霊の影
母と娘
「ただいま」


助手席に乗り込むと同時に、娘はランドセルから幽霊の本を取り出し、相も変わらず熱心に読み始めた。


最後のエッセイとなった「私の勝ち」。



「瑛梨奈、シートベルトして。


車の中で本なんか読んで、酔わないの?」


「うん」



シートベルトを締めながらも、娘の視線は本に釘付けになったままである。



「ねぇ、誰かお友達、その辺歩いてない?

ついでに送ってくよ」


私がそう言うと、瑛梨奈は家路に就く子供たちで賑わう校舎の方を一瞥し

「大丈夫」

と答えた。


「……そう」



私は車を走らせた。



「いつも同じ本読んでるけど、それそんなに面白いの?」


「うん」


娘は生返事をした後

「いや……面白いけど、ただの面白い本とは違うかな」

と付け加えた。


「なんか、アップデートみたいな本」


「……アップデート?」
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