かまってくれてもいいですよ?
「何の用だった?」
 
運転手がつとめて明るい声で訊ねて来る。
 
「大した用ではなかったみたいです」
 
駅はもう目の前だった。
 
降りる支度を始めていると、運転手が「あの!」と大きい声を出した。
 
「俺も、大した用じゃなくても、美雲さんに連絡してもいいかな」
 
そう言われ、私は呆気にとられる。
 
「別に、連絡するようなことなんて何も……」
 
「だから、大した用じゃなくてもダル絡みで掛けちゃ駄目なの?」
 
語気が強く、少しばかり怒っているように聞こえてしまった。
 
「今の人は先輩だったから」
 
何にもならないような言い訳をしながらも、早く車から降りてしまいたいと思った。

携帯を強く片手で握りしめながら、愛想笑いを崩さないように必死だった。

「俺、美雲さんのこと結構気になってるから、もっと仲良くなりたいんだけど。もし美雲さんさえ空いていたら、来週の金曜日、遊びに行こうよ」
 
その言葉に、電話を聞かれていたのだと何となく分かった。
 
「その日は大学なので」
 
「終わってからでいいよ、夕飯に行こう」
 
私が断る言葉を探している様子を見て、運転手は少しだけ笑うと、車を停めた。
 
「連絡、待ってるね」
 
降りる際にそう言われ、私は少しだけ暗い気持ちになってしまった。

たったそれだけの出来事で、何故だか怖いと思えてしまった。
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