放課後コイ綴り




待った?

今来たところ。



本やドラマでよく見かける定番のやりとり。

まさかこんな風にして一条くんとできるなんて。



本当のデートじゃないとはわかっているのに、それでも胸がとくとく、と優しい音を立てる。



「……」



一条くんが黙りこみ、沈黙が落ちる。

どうしたんだろうと自分の言葉を振り返り、わたしは赤面した。



────デートみたい。



「ち、違うの! あの、その……」



わたしがなんとか弁解しようとあわあわしていると、一条くんが口を開く。



「女なら遅れて来いよ」

「え?」

「せっかくのデートなのに、俺の立場ない」



そう言いながら柔らかく、笑う。

花の蕾がほころぶようにふわりと。



その表情にどきどきしてしまう。

だけどね、



「一条くん、それは無理だよ」

「無理?」

「だってそんなの、もし本当にデートだったら、待つことさえも嬉しいから。
こんな幸せなこと、譲れないよ」



えへへ、と見上げると、一条くんがくるりとわたしに背を向ける。

黙ってマフラーを外している後ろ姿にえ? え? と困惑するも、一条くんの黒髪から覗く彼の耳が色づいていることに気づいて言葉を失う。



「……」

「……」

「準備するぞ」

「うん」






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