放課後コイ綴り




あの日、一条くんがカイロをくれた期末の……わたしたち3年生の最後のテストが終わった日。

あれからも何度かふたりで部活をしていた。

それでもわたしは原稿が進まなくて、新しいネタを探しにここに来た。



一条くんはいつも通りよく筆が進んでいたし、部室にいると思っていたのにまさかこんなところで会うなんて。



週に2回。

月曜日と木曜日だけの部活。

ふたりでいられる貴重な時間をふいにしたと思っていただけに、ここで姿を見られたことが嬉しくて仕方がない。



わたしの視線に気づいたのか、顔を上げた一条くんと目が合う。



「相原?」

「っ!」



一瞬驚いた表情を見せるも、あっという間にいつも通り。

緩く結ばれた口元は無を描いている。



「相原も資料探し?」

「う、うん。
妖精の本とか見たいなぁって」

「ああ、じゃあちょうどこれがいいかもな」



はい、と差し出してくれる本をおずおずと受け取る。



「ありがとう……」

「ん」



適当に棚から抜いた本を、一条くんは手にする。

そしてまた、自然と沈黙が落ちる。



静かさが甘く広がる。

果実のシロップに浸かったかのようなこの空気が嫌じゃない。

むしろ楽しいと思うけど。



わたしはまだ先輩たちのいた、昔の騒がしさが……好きだった。







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